2014年5月7日水曜日

バンコク②

普段からエアコンのない家に住んでいるので文字通りの熱帯夜でも安眠を妨げられることはない。聞きなれない、しかしとてもメロディアスな野鳥の声で気持よく目を覚ます。自分が眠っている間も人類が誕生する前もあの鳥はああして鳴いている。とりあえず表に出ると強い日差しに照らされた草花の生い茂りが目に飛び込んでくる。とにかく強い。植物が強い。高温多湿というアドバンテージを得た植物たちの暴れっぷりに感嘆しきりである。以前どこかで宮﨑駿が、「忍者武芸帳」「カムイ伝」などで白土三平が描く荒野など日本ではあり得ない、この国で人間が滅びれば緑あふれる島々が現れるだけだ、と言っていたのを見たことがあるが、ここバンコクでは滅びずとも既にして緑は力に溢れている。


バンコクで世話になる篠田千明(演出家 / ex快快)の家はバンコクを東西に貫くスクンビット通り(Sukhumvit)を東に進み、エカマイ(Ekkamai)駅を過ぎたあたりで北に枝分かれしたソイ(路地)のドン付きにある。スクンビット通りは片側二車線の大きな通りで、同時にBTSと呼ばれる鉄道も高架の上を走っており、この街を代表する動脈のひとつと言ってよい。BTSを最初に見て驚いたのはその高さで、実際に測ったわけではないが柱の細さも相まって日本の高架の3〜5割り増しくらいに見える。まだ新しい路線とあって駅構内もきれいで、高架下の雑然とした光景との対比をなしている。






前夜にコーディネーターとLINEで連絡を取った結果、会場下見は15時からとなったので、午前中は篠田にくっついて旧市街の方へと行くことにする。エカマイから見て西の方へと、BTSから地下鉄、さらに水上バスを乗り継いでいく何とも新鮮な行程だ。ちなみに今回の活動の会場のあるトンロー(Thong Lor)はエカマイの西側、つまりやや都心寄りの地区で、在タイ邦人も多く住むやや高級なエリアだそうだ。


チットロム駅を過ぎサヤム辺りから大型の商業施設の並ぶ超現代的なエリアとなるが、目的は更にその先。運河を走る水上バスからの眺めはさながら都市の断面図のようだ。この辺りまで来るともう完全に下町で、街の雰囲気もグッと庶民臭いものになる。水しぶきの向こうでは生々しい生活の姿が展開されている。







目的地に向かう途中で、反政府組織が占拠しているエリアを通過した。大きな天幕を張った下では特に何をするでもなくおじさんたちが座り込んでいる。天幕と言っても中央の大きなテントを除けば殆どは安価なビニールをロープと木杭で固定した仮設的なものだ。篠田曰く、タイの人々は「とりあえず何とかする」のが抜群に上手い、けれどちゃんとしたものはちょっと苦手、だそう。それにしても給水ホースの固定をアスファルトで固めているのには笑ってしまった。後のこと考えてなさすぎる。だがそれがいい。もちろんそんな感想は他人事だから言える。






昨年バンコクで起きたデモの話で笑ったのがTシャツ成金の話。騒動の最中、両勢力はそれぞれ赤(タクシン首相支持)と黄色(反タクシン・王室支持)をシンボルカラーとし結束を図っていたのだが、そこで篠田のある友人が機転を利かし、その色のTシャツをつくり路上で販売したところ飛ぶように売れ、けっこうな儲けを出したそうだ。何かが起これば人が動く。人が動けばお金も動く。それぞれが密接に絡まりつつ利害が相食む生態系をかたち作っている。それは道の途中で出会った立派な大樹にまとわりつく蔦葛の様相と相似をなしているように思えた。