2014年11月8日土曜日

現場について

全三ヶ所に亘る『わが父、ジャコメッティ』のスイスツアーもうち二つをすでに終え、今は最終地であるバーゼルに来ている。到着一日目で舞台を仕込み二日目にリハーサル、そのまま夜に本番、翌日すぐに移動という過酷な日程だった今までと違い、バーゼルではしばし余裕ができたのでこうしてブログなど書いてみる気にもなった。とはいえ二日間で準備から上演までを済ませねばならないことに変わりはないのだけれど。

こうした過密日程を支えているのがスタッフワークであり、それはツアーに帯同しているメンバーはもちろんだが、初演の直前にスタジオを数日間使用することを許可してくれたKAATや、その次に会場を移したとき空間に合わせた調整を一緒に考えてくれた京都の面々にも負うところが大きい。そしてスイスの各劇場スタッフもまた非常に有能かつ献身的だ。

ところで舞台と建築をいつもアナロジカルに考えるのがいつもの自分の思考パターンだが、多くの人はそれを危口が大学で建築を学んだことによるものだと捉えているフシがある。しかし同時に重要なのは一介の人夫として約十年間建設現場に出入りしていたことで、あの場で得られた知見もまた今の活動に影響を与えているのだ。

学問として学ぶ建築設計と実際の建設現場の隔たりは極めて大きく、ふつうの建築学徒は卒業後社会に出て設計事務所などに務めることでこの断絶を埋めていくことになる。それが可能なのは学生であろうと社会人であろうと「設計者」ないし「建築家」という立場自体は変化しないからだ。自分はついにその機会を持たずまま来てしまった。同じ現場にいても設計者と人夫とではあまりにも見えてくるものが違う。だから建築の意味するところもふたつに分かたれたままである。

むろんこの断絶のお陰で『搬入プロジェクト』を思いつくことができたのだから結果オーライと言われればそうなのだが、しかしここ最近は断絶に開き直ることへの戸惑いが生じつつある、ような気がする。それは「建築家と現場の職人」、そして「演出家と劇場スタッフ」というそれぞれの関係にもまた類推が働き始めたからだ。

いつも三日坊主だが、この記事は頑張って先を続けるつもり。