2011年12月30日金曜日

お金のこと

年明けに控える悪魔のしるし次回公演も稽古は昨日12/29で一旦納め、次は年明け1/3からになります。本来ならば佳境といってもいい時期なのですが、年越しにあくせくしてるのって何だかなーと常日頃から考え、コンビニだって閉店していいんだ、初売も三ヶ日開けてからにしろよ、などと放言していたので自分がその戒めを破るわけにもいかない、まあ結局里帰りしない時点でコンビニのお世話になることは確実なんですが。そのあたりどうも中途半端でイカンです。

ところで今公演の稽古場、危口がレジデンス(滞在制作+他作家との交流)をしていた都の施設「トーキョーワンダーサイト青山」や悪魔のしるしメンバーの持っている建築事務所スペース、そして舞台関係者にはお馴染みである世田谷区の施設利用制度「けやきネット」などのお世話になりつつ凌いできたのですが、さすがに師走も押し迫ると各施設も休館となり、仕方がないので昨日に限って、悪魔のしるしメンバーである神尾君が住んでいるマンションの集会所を使うことにしました。一時間あたり4~500円くらい、世田谷区の施設に比べるとだいぶ割高です。

で、稽古も無事終わり、その後はそのまま上階にある神尾くんの居室に移り忘年会、美味しい鍋料理を御馳走になり、おのおの帰路についたのでした。"それ"が始まったのはその途上のことです。

なんとか終電に滑りこみ最寄り駅に到着、自宅まで20分の坂道をとぼとぼ歩き始めた俺の携帯にメールが届きました。神尾くんからでした。「年明け最初の稽古もウチの集会所でやりませんか」とのこと。確かに良い環境でしたが、料金のことを考えると首を縦に振るのは難しい、みんなの家からは少し遠いけど例の建築事務所のほうが気楽に使えるし、何より無料(もちろん些額ではありますがお礼はする予定です)ですから。その旨を伝えると反論が来ました。

ここから先はメールを(ほぼそのまま)転載してみたいと思います。

神尾
「稽古参加者の交通費を後で支払うことになるのなら、建築事務所まで行くのもウチの集会所に料金払うのも大差ないのではないか」

危口
 「交通費の計算はしていない。支払いもない」
「それらをいちいち拾っていたら運営が成り立たない。残念ながらそれが現実」

神尾
「狭い界隈の常識で片付けてもいいのかもしれないけど、自分は演劇関係者の同属搾取が嫌い。公演が上手くいったら主宰劇団の総取りってことでいいのか。参加者への還元はないのか。それが普通なのか」

危口
「気持ちはわかるが、実際そんなもん。だから今回は個々の出演者に最初に会ったタイミングで、ギャラがとても少ないことは伝えてある」
「予算規模は企画ごとに違う。今回は少ない。今後助成などが受けられるようになればまた変わってくると思う」
「この構造を嫌悪するなら、新しいモデルを神尾が考案し実践に移すしかない。危口に言ったりネットで愚痴っても何も変わらない」
「神尾が本気で考えたいのなら悪魔のしるし主宰としても協力する」
「今のところ舞台でちゃんと運営できてるのはジャニーズ事務所のものなど、ごく限られた公演だけ。ほとんどは企業や公的資金の助成なしには成立しない。神尾が同属搾取の”同属”の範囲をどこまで設定しているのかは分からないけど、映画や漫画など複製可能、大量流通可能ではない舞台藝術という形態は、今のところは誰かが保護しなきゃすぐに滅んでしまうようなトキ(天然記念物)みたいなもんだ」
「本気でこの問題を考えたいのな、いつも予算捻出に奔走してるプロデューサーさんたちを紹介するから話を聞いてみたらいい」

神尾
「確かに安全地帯から遠吠えしても仕方ない。個人的に、今回の参加者にアンケートをとってみたい」
「演劇業界はそのシステム自体に問題を抱えてる気がしてならない」

危口
「狭い範囲でアンケートなんて言ってる時点でズレてる。」
「アンケートで心理的なこと知っても何にもならない。自分で架空の公演の予算表を組んでみればいい。心情ではなく数字を見て欲しい。出演者はもちろん舞台監督以下各スタッフへの日当も含めて」
「舞台業界、それから、今回出演してくださる荒木悠さんが活動している現代美術界隈の悪弊に挑みたいのならそれ相応の覚悟がいるし、そして知るほどに絶望するだろう。それでもまだやりたいと思えるかどうか」

神尾
「いわゆる劇団ならば仕方が無いかも知れないけど、特殊な形態をとっている悪魔のしるしなら何かできるのではないか」
「とにかく目の前の理不尽には我慢ならない」
「これを機に独自規格を考案できるのではないか」
「自分が実態を知らないだけなのかも知れないが、稽古でみんな頑張ってくれているのに十分なお返しができないのは辛い。今のところ、みんなで居酒屋に行った時に少し多めに払うくらいしかすることがない」

危口
「神尾の主張に反対する人間なんて誰もいない。問題はそれが実現可能かどうか、それだけだ」
「だから、俺は(お金の問題に関しては)舞台演劇公演よりも”搬入プロジェクト”に可能性を感じている。」
「搬入プロジェクトは作品というよりは一種の出来事、行事としての側面が強い。」
「作品=商品、と考えるとほとんどの舞台公演運営は破綻する(そして参加者のボランタリーな協力によって帳尻を合わせる)」
「作品≠商品、と考えることで何かできるのではないかと考えている」

神尾
「いろいろ理解した。この問題について継続的に考えていきたい」


次回公演作品内でも少し触れますが、神尾くんは役者では勿論ないし、舞台関係者でもありません。俺が悪魔のしるしを始めたときにバイト先でスカウトしました。そんな彼の無垢な問いに対して俺は満足な答えを与えることができません。

きぐち