2012年3月18日日曜日

搬入プロジェクトについてのオシャベリ

某所で「搬入プロジェクト」について話す予定なので
その原稿を書いた。ので転載。
口調については突っ込まないで欲しい。そういう場なんですよ。

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へい どうも
俺は危口統之ってケチな野郎で
演劇とかパフォーマンスの演出家みたいなことをやってる。
演出家じゃなくて「演出家みたいなこと」だ。わかったかい?
おっと、それ以上は聞かないでくれ、説明は後回しだ。

今日はな、俺が思いついた面白い「遊び=PLAY」をみんなに教えるぜ。
こいつはPLAYつっても「演劇=THEATER」じゃないんだ。
文字通りのPLAYなんだ。
いや、見方によってはWORKとも言える。
WORKって言っても「作品」じゃなくて、「仕事」の方だな。「労働」っぽいのさ。
うーん、いや、演劇かも知れない、難しいな。説明しづらいぜ。

おっと、前口上が長すぎたな。
俺のくだらないお喋りを聴かせるよりも、
さっさとこのPLAYもしくはWORKの説明をしなきゃな。

さて、何から話そうか。
いままで俺がやってきた活動の写真やビデオを見せてもいいんだけど、
それは後回しだ。
なんでかって?
そうだな、その説明もしなきゃな。

結局、俺がダラダラしゃべることになりそうだな。
悪いけど聞いてくれ。これは大事な事だからよ、少なくとも俺にとってはさ。

俺が思いついたこいつは、いちおう名前もあって
「搬入プロジェクト」っていうんだ。(carry-in project)
これは……なんて言ったらいいんだろうな。
場合によっては、俺はこいつを演劇って言い張るし、
でも、単なる遊びかもしれないし、ゲームとも言えるし、
また別の見方をすれば彫刻、いや、「裏返された建築」とも言えるかな?
とにかく、ひどく曖昧なんだ。

何でこんなことになってしまったかって、それは、
この作品が先鋭的ってわけじゃなくて、むしろ、
異様に原始的だからさ。
君たちの身の周りのアーティストを見てみな。
みんな「自分の作品はどのくらい先の未来まで生き残るだろうか」、
そんなことに汲々としているだろう?
その気持ちは分かるぜ。俺だってそんなことを考えることもあるさ。
でもな、未来のことなんて知ったこっちゃねえ。

そこで、俺は発想を転換したんだ。
「過去の時代でもウケる作品を作りてえな」ってさ。
もちろんこんな考えは妄想だよ。でも、刺激的だろ?
「搬入プロジェクト」は、俺の勘では、そうだな、
旧石器時代の人間にもそれなりにウケると思うぜ。

いかん、また話が逸れてるな。
これは俺の悪い癖なんだ。
大学は出てるんだが、論文ってやつを書いたことがなくてね。
話をまとめるのが苦手なんだよ。
自分で一から作り上げるのも苦手なんだ。
つまり、もともとそこに在ったものにイタズラするのが得意ってことさ。
俺に仕事をさせたきゃ、俺の嫌がるタスクを強要してくれればいい。
うまいことサボりながら自分の好きなことをやるからさ。

俺は、言うなれば、「二次的な」存在なんだ。
居ても居なくてもいいけど、突然現れて、
みんなが「これしかない」って使い方をしてる物の別の使い方を、
イタズラっぽく提示して去っていく、そんな存在だ。

つまり演出家っていうのは「ちょっかいを出す」のが仕事なんだ。
少なくとも俺はそう信じてる。
硬直化したものを溶かす春の暖かさのようなものさ。

え?早く説明しろって?
悪い悪い、そうするよ。
ここからは写真やビデオも使おうかな。

説明は一瞬だ。すぐ終わるからよく聞いてくれ。

1 空間をひとつ選ぶ
2 その空間にギリギリ入る形状の物体を作る
3 みんなで力をあわせてその物体を運び込む

これで終わりだ。シンプルだろ?
シンプルすぎてバカみたいだ。俺もそう思うぜ。
だからもうちょっと補足したほうがいいかな。


まず
「1 空間をひとつ選ぶ」なんだが、
コツとしては、「出入り口は狭いけど内部は広い空間」を選ぶと面白くなるぜ。
別種のものでは「内部は広いけど出入り口は狭い空間」もイイね。
具体例を挙げるなら、倉庫や、公共施設のエントランスホールだな。
テートモダンのホールなんてサイコーに具合がいいぜ。
関係者これ見てたら連絡くれよ。


次に
「2 その空間にギリギリ入る形状の物体を作る」だけど、
これに関しては、いくつかのフェーズに分けたほうが説明しやすいな。
といっても簡単だ。大きく分ければ以下の三つだ。
「測量」「模型」「実作」。


まず 空間を決めたら現地に行って大きさを測量するんだ。
そしてそれをもとに図面を書いて、更に図面をもとにして模型を作る。


そして、模型が完成したら、とりあえず手元にある色んな小物、
例えばペンやタバコの箱なんかを使って、
どんな形状のものが搬入できるか試してみてくれ。

この段階である程度の見通しを得られたら、
次に、実際に物体を作る素材や、
それから予算、当日参加する人数を想定しながら具体的な設計を開始だ。
俺の場合は、日本で容易に手に入る木材や竹を念頭に置きながら設計した。
素材に関しては、地域によって価格や入手しやすさに違いがあるから、
自分たちのやりやすいようにしてくれたらいいよ。

あと、ひとつ大事なアドバイスを。
最初に俺が「これは演劇かもしれない」と言ったのを覚えてるかい?
演劇には戯曲が必要だろ?
その戯曲の指示に従って俳優は舞台上で動く。
じゃあ、「搬入プロジェクト」ではどうなるか?
この物体こそが戯曲ってわけさ。
そうだな、戯曲でもあるし彫刻のようでもあるし、
「scripture」なんて表現はどうだ?
サムい?

まあいいや、
戯曲と物体の共通点を挙げてみるから、ちょっと聞いてくれ。

・長さを持つ、つまり始まりと終わりがある。
・途中で折れ曲がったり捻れたり、と起伏のある展開
・それ単体でも魅力的だが、上演されることで息を吹き込まれる
・解釈によって上演は毎回異なったものとなる

まだまだありそうだけど、まあ、この辺りだな。
「搬入プロジェクトは演劇だ」ってことは分かってもらえたかい?
俺にとってはそのほうが都合がいいんだ。
これが俺の作った演劇作品なら俺は作者として報酬を請求できるからな!


さて、設計が終わったら実際に物体を作る工程に進もう。
さっきも言ったけど、ここで大事なのは素材と構法だ。
矛盾する課題をクリアしながら進めなきゃいけない。
つまり、
「頑丈な方がいいが、強度を上げすぎると重くなり運べない」
ってことだ。
かといって、軽くしすぎて運んでる途中で壊れるようじゃ話にならない。
この物体は戯曲でもあるんだからな。
上演の途中にもかかわらず戯曲が変わってしまったら困るだろ?
重量と強度のバランスに気をつけてくれ。

そして、物体を覆う外皮の素材も重要だ。
あまり想像したくないが、壁や天井に激しく衝突するかもしれないからな。
できるだけ柔らかい素材で全体を覆っておけば万一の場合も安心だろ?


さて、最後に
「3 みんなで力をあわせてその物体を運び込む」ことについての説明だ。
言うまでもないことだが、実際の作業にはそれなりの危険が伴う。
くれぐれも怪我しないように気をつけてくれよな。
そのために大事なのは、

・事前のストレッチ と
・声をかけあう ことだ。

作業開始前によく体をほぐしてくれ。
そして作業中はお互いに声をかけあって、力をあわせて搬入だ。
参加者それぞれの役割は物体の動きによって変わってくる。
周囲の状況にあわせて臨機応変に対応してくれ。
人もそうだけど、建物にもぶつけないよう気をつけてくれよ。
無事運び込めたときの爽快な気分は俺が保証するぜ。

さて、まあ、こんなもんだ。
こっからは、いくつか補足していこう。

みんなも薄々感づいていると思うんだけど、
搬入するためだけにバカでかい物体を作るわけだから、
作業が終われば物体は役割を終えてただのwhite elephantってやつになっちまう。
もちろん、そのまま展示してくれてもいいけど、それだって永久じゃない。
いつかは解体してゴミに出さなきゃいけないだろ。
だからさ、できるだけ自然素材に近いものにして欲しい、これは俺からのお願いだ。
そして、ちょっとした内部告発でもある。

というのも、みんなが普段から親しんでいる演劇や映画、それから建物が、
その製作過程においてどれくらいのゴミを出してるか知ってるかい?
そりゃもう尋常な量じゃないんだぜ。
俺は演劇だけじゃ食っていけないから、いつもは工事現場で働いてるんだが、
毎日大量に廃棄されるゴミを見てるだけで頭がクラクラするんだ。
工事現場から出るゴミだけで家が何軒も建っちまうぜ。

確かに芸術は贅沢品かも知れない。
だからって、無駄をそのままにすべきじゃない。
無駄、言い換えれば「余裕」だな。
余裕が必要なのは予算や材料じゃなくて、アートに関わる人間の精神だ。
「わざわざ入れにくいものを一生懸命作って、入れたら終わり」なんて
余裕がなきゃやってられないだろ?
そして運び込んだときに得られる感動がその余裕を満たしてくれるって寸法だ。

それから次、これは矛盾をはらんだ話になる。
俺は「搬入プロジェクト」のことを演劇でもあり遊びでもあり、労働でもある、って言ったよな。
これが「演劇」なら、俺は劇作家だ。
つまり「作品」ってことになり、俺の署名が入る。

でもさ、これまで説明したとおり、「搬入プロジェクト」は
ちょっとした余裕さえあれば誰でもできるものだ。
だから、俺の署名なんて必要ない。
俺がその場に居なくてもやりたい人がやってくれたらいいんだ。
現代風に言えば「オープンソース」ってやつだな。
となると、こいつは「作品」じゃない。
「作品」は「鑑賞」されるものだけど、
「搬入プロジェクト」は「参加」するものなんだ。
「鑑賞」じゃなくて「参加」だ。
それぞれの役割はあるけど、上下関係はないんだ。

俺としては、世界各地でみんなが勝手に「搬入プロジェクト自分だけバージョン」を
やってくれることがいちばんエキサイティングなんだけどさ、
一方で、自分の作品が金にならないと、俺はいつまでたっても貧乏だ。
こいつは難しい問題だ。みんなもそう思うだろ?

だからさ、余裕――この場合は金銭的余裕だ――がある奴は
ぜひ俺を呼んでくれ。つきっきりでその土地に合った面白いバージョンを考えるぜ。

そして、金のない奴は勝手にやってくれ!
でも、もし良かったら、俺に連絡をくれよな。
メールでアドバイスするし、君たちのバージョンを記録した写真やビデオなんかも観たいからさ。

とまあ、長くなっちまったが俺からの説明はこんなもんだ。
みんな気に入ってくれたかな?
だとしたら、さっそく具体的実行に向けて動いてくれ。
enjoy it!